年を重ねると「最近は疲れが溜まって…」が挨拶代わりになっていませんか?
一言で疲労と言っても体が重い、だるい、気力がない、力が入らない、めまいがするなど、疲労によって引き起こされる心身の症状は様々です。
ところで疲労とはどんなもので、どのように引き起こされるか理解していますか?
疲労に関して理解が深まれば、その対応も違ってきます。
しじみは疲労回復に効果があるとして最近にわかに注目を浴びていますが、どうして疲労回復に効果があるのでしょうか?
今回はしじみと疲労回復についてお話します。
疲労とは健常者が肉体に感じる危険信号で、その状態を回復するには十分な休養が必要です。
例えば体内のエネルギーが不足した場合や筋肉や骨格などに過剰な負荷がかかった場合、また脳にストレスがかかった場合も限界を超えれば肉体が危険な状態にさらされるので、疲労を感じることで休息やエネルギーの補給をするように指令が出ているのです。
そして疲労は
・抹消性疲労
・中枢神経性疲労
の2つに分類されます。
抹消性疲労とは肉体が主体となって感じる疲労です。
重労働や負荷の強い運動、または内蔵などの不具合で引き起こされ、体内のエネルギー不足や各器官が外的な負荷に耐えられなくなった場合に感じます。
基本的には生理的な疲労なので食事でエネルギーを補給したり、睡眠などで十分な休息を取ったりすることで各器官の機能が回復し、疲労感が消失します。
中枢神経性疲労とは脳が主体となって感じる疲労です。
長い時間頭を使ったり、精神的なストレスを感じたりして脳の情報処理能力を超えると疲弊し、脳が正常に機能しなくなります。
集中力の低下や情緒不安定、物忘れなどが発生し、これが肉体面にも影響して疲労感を感じます。
中枢神経性疲労の場合、抹消性疲労と異なり睡眠などの休息では疲労感が回復しない場合が多く、慢性疲労を引き起こす場合もあります。
中枢神経性疲労は脳の活動を如何に沈静化させるかが疲労回復の鍵となります。
しじみの栄養素の中には抹消性疲労と中枢神経性疲労それぞれに対応する成分を数多く含有します。
抹消性疲労には
・オルニチン
・グルタミン酸
・ビタミンB2
・ビタミンB6
・ビタミンB12
・鉄分
中枢神経性疲労には
・オルニチン
・ビタミンB6
・トリプトファン
・亜鉛
・カルシウム
が疲労回復に効果を発揮します。
末梢性疲労は肉体を酷使して発生したアンモニアやエネルギー不足によって引き起こされます。
しじみが含有するアンモニア除去やエネルギー代謝に関わる栄養素を摂取し、十分な休養を取ることで疲労回復が早まります。
肉体的な疲労が蓄積している場合、体中に人体に有毒なアンモニアが充満している場合があります。
肝臓はそのアンモニアを尿素回路で分解して人体に無毒な尿素に変え、尿とともに排出する役割を担いますが、加齢などで肝臓の機能が衰えるとアンモニアを処理しきれずに慢性疲労を引き起こします。
オルニチンは尿素回路に働きかけアンモニアの分解を促進し、同時に肝臓のミトコンドリアを活性化せて肝臓の代謝機能も促進します。
体内のアンモニアの量が減ると末梢性疲労が回復します。
グルタミン酸もオルニチンと同様にアンモニアを除去する効果があります。
グルタミン酸の場合、アンモニアと結合することで人体に無害なグルタミンに代謝され、肝臓に運ばれて代謝を繰り返し最終的に尿素として体外に排出されます。
またグルタミン酸は糖原性アミノ酸なので、体内でエネルギーが不足した時にクエン酸回路で糖新生を行う時に使用され、疲労時に摂取すると素早くエネルギーに変換され疲労回復に効果を発揮します。
ビタミンB2とB6は共にエネルギーの燃焼に関わるビタミンです。
ビタミンB2は脂肪の燃焼に、ビタミンB6は三大栄養素の糖質、脂質、たんぱく質の燃焼に関わり、疲労時に消耗したエネルギーを蓄えていた脂肪などを代謝して回復します。
ビタミンB2は腸内細菌でも合成が可能ですが、激しい運動後は不足するのでビタミンB2を多く含有するしじみなどで外部から摂取すると効果的です。
激しい運動をすると体内に酸素を供給する赤血球のヘモグロビンが破壊され、特に鉄分を普段から十分に摂取していないとヘモグロビンが徐々に減っていくので貧血性の疲労を起こしやすくなります。
ビタミンB6、B12、鉄分は共にヘモグロビンの合成に必要不可欠な栄養素で、しじみはビタミンB12と鉄分を非常に多く含有しているので運動時に破壊されたヘモグロビンの合成を増やすことができ、末梢性疲労の回復に効果を発揮します。
中枢神経性疲労は情報処理をする脳に過剰な負荷が掛かるエネルギー不足やアンモニアの発生、興奮性神経伝達物質の過剰生産による機能不全などで脳の機能が麻痺して発生する疲労です。
中枢神経性疲労の回復には、これらの疲労原因となる要素を取り除く必要があります。
脳の唯一のエネルギー源はグルコース(ブドウ糖)で、脳にグルコースを供給する器官が実は肝臓で、肝臓で生産されたグルコースが血流を通じ脳に提供されます。
肝機能が衰えると脳にグルコースを十分に供給できないので中枢神経系疲労を引き起こします。
オルニチンで肝機能が活性化されれば、グルコースの生産量が上がり脳の疲労回復も見込めます。
脳内は興奮性神経伝達物質と抑制性神経伝達物質が相互に働き、記憶や感情などのコントロールが行われます。
情報処理で過剰に脳に負荷が掛かると興奮性神経伝達物質が過剰供給され、これが脳の神経細胞の機能を狂わせ、特に脳内で過剰生産された興奮性神経伝達物質のグルタミン酸は神経細胞を破壊する作用があります。
増え過ぎた興奮性神経伝達物質は抑制性神経伝達物質を増やすことで拮抗作用が働き、脳の活動を鎮静化させることが可能です。
ビタミンB6は三大栄養素を燃焼させる役割がありますが、脳内では神経伝達物質を代謝する際に補酵素として活躍し、アミノ酸のトリプトファンから「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンを作り出します。
セロトニンは興奮性と抑制性の両方に作用しますが、セロトニンが増えると感情が沈静化し、疼痛を抑制します。
またセロトニンは睡眠を司るメラトニンと拮抗作用があり、加齢でセロトニンの生産量が減るとメラトニンの生産量も減り、眠りが浅くなり疲労の原因となります。
セロトニンの生産量を増やすことでメラトニンの量も増え、自律神経の調整がスムーズになり眠りの質も向上し疲労回復が促進されます。
トリプトファンは体内で合成できない必須アミノ酸ですが、しじみは可食部100g当たり75mg含有し、これは成人が1日に必要な摂取基準の37%に当たる高含有率です。
3-2-2-1・ビタミンB6とGABAの関係
グルタミン酸は末梢性疲労の際にはエネルギー源として効果を発揮しますが、脳内では興奮性神経伝達物質として働き、これが活性化していると脳にストレスを与え疲労感を感じます。
ビタミンB2は興奮性神経伝達物質のグルタミン酸の活動を鎮静化する抑制性神経伝達物質のGABAの生産にも関わります。
GABAはγ-アミノ酪酸(Gamma Amino Butyric Acid)の略で、抗ストレス作用があり、GABAの生産量が増えると興奮性神経伝達物質の分泌が抑えられ、リラックス状態を作り出します。
カルシウムは脳内で記録の形成や感覚などの情報伝達に関与し、亜鉛は脳内で記憶の形成や感覚に関与する神経調節因子を司ります。
これらが不足すると学習や記憶、感覚器官に異常をきたし、脳の情報処理能力が低下してストレスとなり、疲労を感じやすくなります。
また亜鉛はホルモンの生産にも関連し、性ホルモンなどの分泌が減るとやる気や倦怠感に襲われ精神的なストレスとなり、脳に負担を掛けて疲労になります。
カルシウムも亜鉛も日本人の食事で不足しがちな必須ミネラルで、しじみはカルシウムも亜鉛も豊富に含有します。
疲労には肉体的な疲労の末梢性疲労と、脳の疲労の中枢神経性疲労の2種類があり、その回復にはそれぞれ対処方法が異なります。
末梢性疲労は筋肉や器官の疲労なのでエネルギー供給や十分な休息で回復しますが、中枢神経性疲労は脳にエネルギーを供給する以外に脳の活動を正常化する必要があり、単に休息を取っただけでは回復しません。
しじみの栄養素は末梢性疲労の回復には、疲労物質のアンモニアを分解しエネルギー供給を助けるオルニチンやグルタミン酸、ビタミンB群、鉄分が効果を発揮します。
また中枢性疲労の回復には抑制性に働く神経伝達物質を作るビタミンB6、トリプトファン、脳の情報処理で重要な役割を果たすカルシウム、亜鉛が効果を発揮します。
しじみは二日酔いの疲労回復ばかりに注目が集まりますが、広義な意味での疲労回復にも効果を発揮する食材です。